Appendix A — 証明

A.1 非線形最適化

A.1.1 黄金分割法における黄金比

1.2.2節の黄金分割法では, 区間の内分点を黄金比 \(\varphi = \frac{\sqrt{5} - 1}{2} \approx 0.618\) で取りました. ここでは, なぜ黄金比が現れるのかを示します.

各反復で関数値が必要になりますが, 関数評価はコストが高いため, できるだけ評価回数を減らしたいです. そこで, 次の2つの条件を満たすように内分点を配置することを考えます.

  1. 縮小率を一定にする. 各反復で区間が同じ割合 \(r \in (0, 1)\) だけ縮小する.
  2. 計算済みの点を再利用する. 前の反復で評価した2つの内分点のうち一方が, 新しい区間の内分点としてそのまま使える. これにより, 1反復あたりの新規の関数評価を1回に抑えられる.

命題 A.1 (黄金分割法の内分比) 区間 \([a, b]\) の幅を \(L = b - a\) とし, 比率 \(\varphi \in \left(\frac{1}{2}, 1\right)\) で左右対称に2つの内分点 \(x_1 = a + \left(1 - \varphi\right) L\), \(x_2 = a + \varphi L\) を取る配置のうち, 上の2条件 (一定の縮小率と点の再利用) を満たすものは \[ \varphi = \frac{\sqrt{5} - 1}{2} \approx 0.618 \] (黄金比の逆数) に限る.

証明. 区間 \([a, b]\) の幅を \(L = b - a\) とし, 内分点を左右対称に取る.

\(f(x_1) > f(x_2)\) の場合, 極小値は \(x_1\) より右にあるので, 区間を \([x_1, b]\) に更新する. 新しい区間の幅は \(L' = b - x_1 = \varphi L\) となるため, 縮小率は \(r = \varphi\) で一定である (条件1). 対称な場合 \(f(x_1) \leq f(x_2)\) でも, 区間は \([a, x_2]\) となり幅は \(\varphi L\) で同じである.

次に点の再利用を考える. 区間を \([x_1, b]\) に更新したとき, 古い点 \(x_2\) は新しい区間の内部に残っている. これを新しい区間の (左側の) 内分点として再利用するには, \(x_2\) が新しい区間 \([x_1, b]\) の左端から幅の \(1 - \varphi\) の位置になければならない (条件2). \[ x_2 = x_1 + (1 - \varphi) L'= x_1 + (1 - \varphi)\varphi L. \] ここで \(x_1 = a + (1 - \varphi)L\), \(x_2 = a + \varphi L\) を代入すると, \[ \begin{aligned} a + \varphi L &= a + (1 - \varphi) L + (1 - \varphi)\varphi L \\ \varphi &= (1 - \varphi)(1 + \varphi) \\ \varphi &= 1 - \varphi^2. \end{aligned} \] 整理すると \(\varphi^2 + \varphi - 1 = 0\) であり, \(\varphi \in \left(\frac{1}{2}, 1\right)\) の解は \(\varphi = \frac{\sqrt{5} - 1}{2}\) に限る.

得られた \(\varphi\) は黄金比 \(\phi = \frac{1 + \sqrt{5}}{2} \approx 1.618\) の逆数 \(\varphi = 1/\phi\) に等しく, \(\varphi^2 = 1 - \varphi\) という自己相似的な関係を満たすことが, 区間の縮小と点の再利用を両立させる鍵になっています.

A.2 関数近似

A.2.1 3次スプライン補間の最小曲率性

2.1節では, 補間の手法として線形補間と3次スプライン補間を比較しました. ここでは, 3次スプライン補間が「滑らかさ」という明確な意味で最良の補間になっていることを示します.

補間関数と滑らかさ. データ点 \((x_1, y_1), \dots, (x_n, y_n)\) (\(x_1 < \cdots < x_n\)) が与えられたとき, これらを通る関数 \(f\) (すなわち \(f(x_i) = y_i\) を満たす関数) を補間関数と呼びます. 補間関数は無数に存在するため, 何らかの意味で「良い」ものを選ぶ必要があります. スプラインの語源は製図で用いる薄い弾性板 (しなう定規) で, その弾性エネルギーは曲率の2乗の積分に比例します. 勾配が小さいとき曲率は \(f''\) で近似できるので, 「なめらかさ」を測る指標として次の曲げエネルギー (bending energy) を考えます. \[ J(f) = \int_{x_1}^{x_n} \left(f''(x)\right)^2 dx. \] \(J(f)\) が小さいほど関数の曲がりが少なく, 不要な振動のない滑らかな補間だといえます.

定義 A.1 (自然な3次スプライン) 関数 \(g\) が次をすべて満たすとき, データ点を補間する自然な3次スプライン (natural cubic spline) と呼ぶ.

  1. 各小区間 \([x_i, x_{i+1}]\) 上で \(g\) は3次以下の多項式である.
  2. \(g\) は区間全体 \([x_1, x_n]\) で2階連続微分可能である (\(g \in C^2\)).
  3. データ点を補間する: \(g(x_i) = y_i\).
  4. 両端で2階微分がゼロ (自然境界条件): \(g''(x_1) = g''(x_n) = 0\).

定理 A.1 (自然な3次スプラインの最小曲率性) データ点を補間する任意の \(C^2\) 級関数 \(f\) の中で, 自然な3次スプライン \(g\) は曲げエネルギー \(J\) を最小にする. \[ J(g) \leq J(f), \qquad \text{with equality iff } f = g. \]

つまり, 与えられた点を通る滑らかな関数のうち, 自然な3次スプラインが最も曲がりの少ない補間を与えます.

証明. \(h := f - g\) とおく. \(f, g\) はともにデータ点を補間するので, 各ノードで \(h(x_i) = f(x_i) - g(x_i) = 0\) である. \(f = g + h\) より, 曲げエネルギーを展開すると \[ J(f) = \int_{x_1}^{x_n} \left(g'' + h''\right)^2 dx = J(g) + 2\int_{x_1}^{x_n} g'' h''\, dx + \int_{x_1}^{x_n} \left(h''\right)^2 dx. \] 交差項が消えることを示す. 部分積分すると \[ \int_{x_1}^{x_n} g'' h''\, dx = \left[g''(x) h'(x)\right]_{x_1}^{x_n} - \int_{x_1}^{x_n} g'''(x) h'(x)\, dx. \] 第1項は自然境界条件 \(g''(x_1) = g''(x_n) = 0\) よりゼロである. 第2項は, \(g\) が各小区間 \([x_i, x_{i+1}]\) で3次多項式なので \(g'''\) がその区間で定数 \(c_i\) となることを使う. \[ \int_{x_1}^{x_n} g'''(x) h'(x)\, dx = \sum_{i=1}^{n-1} c_i \int_{x_i}^{x_{i+1}} h'(x)\, dx = \sum_{i=1}^{n-1} c_i \left(h(x_{i+1}) - h(x_i)\right) = 0. \] 最後の等号は, すべてのノードで \(h(x_i) = 0\) であることによる. したがって交差項はゼロとなり, \[ J(f) = J(g) + \int_{x_1}^{x_n} \left(h''(x)\right)^2 dx \geq J(g). \] 等号が成立するのは \(\int (h'')^2 dx = 0\), すなわち \(h'' \equiv 0\) のときに限る. このとき \(h\) は1次関数だが, \(h\) は2つ以上のノードでゼロになるため \(h \equiv 0\), つまり \(f = g\) でなければならない.

以上より, 自然な3次スプラインは「与えられた点を通る最も滑らかな関数」という変分問題の解になっています. これが, 高次の多項式補間で生じる不要な振動 (Runge 現象) を避けつつ, 線形補間と違って2階微分まで連続な補間が得られる理由です.

A.2.2 ガウス求積

命題 2.1 を, ルジャンドル多項式の直交性から示します. ルジャンドル多項式 \(P_0, P_1, \dots\) は, \(P_k\) が \(k\) 次の多項式で, 次数の異なるものどうしが区間 \(\left[-1, 1\right]\) で直交する \[ \int_{-1}^{1} P_j\left(x\right) P_k\left(x\right) dx = 0, \qquad j \neq k \] ような多項式の列です. \(n - 1\) 次以下の多項式は \(P_0, \dots, P_{n-1}\) の線形結合で書けるので, \(P_n\) は \(n - 1\) 次以下のどの多項式 \(q\) とも直交します. \[ \int_{-1}^{1} q\left(x\right) P_n\left(x\right) dx = 0, \qquad \deg q \leq n - 1. \tag{A.1}\]

まず, 命題の評価点がきちんと \(n\) 個とれることを補題として示しておきます.

補題 A.1 (ルジャンドル多項式の零点) \(P_n\) は開区間 \(\left(-1, 1\right)\) に \(n\) 個の相異なる零点を持ち, それが \(P_n\) のすべての零点である.

証明. 背理法で示す. \(P_n\) が \(\left(-1, 1\right)\) で符号を変える点が \(k < n\) 個しかないとし, それを \(z_1 < \cdots < z_k\) とする (\(k = 0\) でもよい). これらの点でだけ符号を変える多項式 \[ q\left(x\right) = \prod_{j=1}^{k} \left(x - z_j\right) \] を作る (\(k = 0\) なら \(q = 1\)). \(q\) は \(k\) 次の多項式で, 各 \(z_j\) を通るたびに符号を変え, それ以外の点では符号を変えない.

積 \(q P_n\) の符号を調べる. 点 \(z_1, \dots, z_k\) で区間 \(\left(-1, 1\right)\) を区切ると, 各小区間の内側では \(q\) も \(P_n\) も符号を変えない. 境目の \(z_j\) では \(q\) と \(P_n\) がそろって符号を変えるので, 積の符号は変わらない. したがって \(q P_n\) は \(\left(-1, 1\right)\) 全体で同じ符号をとる (つねに \(0\) 以上, またはつねに \(0\) 以下).

また, \(q\) も \(P_n\) も \(0\) でない多項式なので, \(q P_n\) が \(0\) になる点は有限個しかない. 同じ符号をとり, 有限個の点を除いて \(0\) でない連続関数の積分は \(0\) にならないので, \[ \int_{-1}^{1} q\left(x\right) P_n\left(x\right) dx \neq 0 \] である. ところが \(q\) の次数 \(k\) は \(n - 1\) 以下なので, 式 A.1 よりこの積分は \(0\) でなければならない. これは矛盾である.

よって \(P_n\) は \(\left(-1, 1\right)\) で少なくとも \(n\) 回符号を変える. 符号が変わる点はどれも零点なので, \(P_n\) は \(\left(-1, 1\right)\) に少なくとも \(n\) 個の相異なる零点を持つ. \(P_n\) は \(n\) 次多項式なので零点は高々 \(n\) 個であり, これら \(n\) 個がすべての零点である.

もう1つ, 余りの部分の積分に使う Lagrange 補間を補題にしておきます.

補題 A.2 (Lagrange 補間) \(x_1, \dots, x_n\) を相異なる \(n\) 点とし, \(L_i\left(x\right) = \prod_{j \neq i} \left(x - x_j\right)\) とする. \(n - 1\) 次以下の任意の多項式 \(r\) は, \(n\) 点での値を使って \[ r\left(x\right) = \sum_{i=1}^{n} r\left(x_i\right) \frac{L_i\left(x\right)}{L_i\left(x_i\right)} \] と表せる.

証明. 右辺を \(s\left(x\right)\) とおく. 各 \(L_i\) は \(n - 1\) 次の多項式なので, \(s\) は \(n - 1\) 次以下の多項式である. 点が相異なるので \(L_i\left(x_i\right) \neq 0\) であり, \(j \neq i\) では \(L_i\left(x_j\right) = 0\) だから, \(s\left(x_j\right) = r\left(x_j\right)\) がすべての \(j\) で成り立つ. すると \(r - s\) は \(n - 1\) 次以下の多項式で \(n\) 個の零点 \(x_1, \dots, x_n\) を持つ. \(0\) でない \(n - 1\) 次以下の多項式の零点は高々 \(n - 1\) 個なので, \(r - s\) は恒等的に \(0\) であり, \(r = s\) を得る.

この2つの補題を使って, 命題を示します.

証明. 補題 A.1 より, 評価点 \(x_1, \dots, x_n\) は相異なる \(n\) 点であり, \(L_i\) と重み \(w_i\) はきちんと定義される. \(f\) を \(2n - 1\) 次以下の多項式とする. \(f\) を \(P_n\) で割ると, \(n - 1\) 次以下の多項式 \(q, r\) を用いて \[ f\left(x\right) = q\left(x\right) P_n\left(x\right) + r\left(x\right) \] と書ける. 真の積分は, 式 A.1 より第1項が消えて \[ \int_{-1}^{1} f\left(x\right) dx = \int_{-1}^{1} r\left(x\right) dx \] となる. 求積公式は, 評価点 \(x_i\) が \(P_n\) の零点なので \(f\left(x_i\right) = r\left(x_i\right)\) となり \[ \sum_{i=1}^{n} w_i f\left(x_i\right) = \sum_{i=1}^{n} w_i r\left(x_i\right) \] である. 最後に, \(r\) は \(n - 1\) 次以下なので 補題 A.2 の形に表せる. その両辺を積分すると, 重みの定義 \(w_i = \int_{-1}^{1} L_i\left(x\right) / L_i\left(x_i\right) dx\) より \[ \int_{-1}^{1} r\left(x\right) dx = \sum_{i=1}^{n} w_i r\left(x_i\right) \] を得る. 以上の3式から \(\int_{-1}^{1} f\left(x\right) dx = \sum_{i=1}^{n} w_i f\left(x_i\right)\) が成り立つ.

A.3 動的計画法

数値計算パートの動的計画法 (第3章) では, 価値関数反復 (VFI) がひとつの関数に収束していく様子を可視化で確認しました. ここでは, その背後にある理論を証明付きで整理します. ベルマン方程式の解 (価値関数) は存在するのか, 一意なのか, そして VFI はなぜ, どれくらいの速さで収束するのか. 答えはすべて, 縮小写像 (contraction mapping) という一つの概念から得られます. 標準的な教科書としては Stokey et al. (1989) があります.

A.3.1 縮小写像

関数の列の収束を扱うので, 議論の舞台は「関数同士の距離」が定義された空間です.

定義 A.2 (距離空間と完備性) 集合 \(S\) と関数 \(d \colon S \times S \to \mathbb{R}_{\geq 0}\) の組 \(\left(S, d\right)\) が距離空間であるとは, 任意の \(f, g, h \in S\) に対して次が成り立つことをいう.

  • \(d\left(f, g\right) = 0 \iff f = g\)
  • 対称性: \(d\left(f, g\right) = d\left(g, f\right)\)
  • 三角不等式: \(d\left(f, h\right) \leq d\left(f, g\right) + d\left(g, h\right)\)

距離空間が完備 (complete) であるとは, 任意のコーシー列 (項同士の距離がいくらでも小さくなる列) が \(S\) の中に極限を持つことをいう.

ここで使うのは, 状態空間 \(X\) 上の有界関数の空間 \(B\left(X\right)\) と sup ノルムの距離 \[ d\left(f, g\right) = \left\| f - g \right\|_{\infty} = \sup_{x \in X} \left| f\left(x\right) - g\left(x\right) \right| \] です. この空間が完備であることは知られています (有界関数の一様収束極限は有界).

定義 A.3 (縮小写像) 距離空間 \(\left(S, d\right)\) 上の写像 \(T \colon S \to S\) が係数 \(\beta \in \left(0, 1\right)\) の縮小写像 (contraction mapping) であるとは, 任意の \(f, g \in S\) に対して \[ d\left(Tf, Tg\right) \leq \beta\, d\left(f, g\right) \] が成り立つことをいう.

縮小写像は「どの2点も, 写すたびに距離が \(\beta\) 倍以下に縮む」写像です. 直感的には, 空間全体が1点に向かって縮んでいくので, その1点が不動点になるはずです. これを正確に述べたのが次の定理です.

定理 A.2 (Banach の不動点定理) \(\left(S, d\right)\) を完備距離空間, \(T\) を係数 \(\beta\) の縮小写像とする. このとき,

  1. \(T\) はただ1つの不動点 \(v^* \in S\) (\(T v^* = v^*\)) を持つ.
  2. 任意の初期点 \(v_0 \in S\) から反復列 \(v_n = T v_{n-1}\) を作ると, \(v_n \to v^*\) であり, 収束は幾何級数的である. \[ d\left(v_n, v^*\right) \leq \beta^n d\left(v_0, v^*\right). \]

証明. Step1 (反復列はコーシー列): \(d\left(v_{n+1}, v_n\right) = d\left(T v_n, T v_{n-1}\right) \leq \beta\, d\left(v_n, v_{n-1}\right)\) を繰り返すと \(d\left(v_{n+1}, v_n\right) \leq \beta^n d\left(v_1, v_0\right)\) である. \(m > n\) に対して三角不等式を使うと \[ d\left(v_m, v_n\right) \leq \sum_{k=n}^{m-1} d\left(v_{k+1}, v_k\right) \leq \sum_{k=n}^{\infty} \beta^k d\left(v_1, v_0\right) = \frac{\beta^n}{1 - \beta} d\left(v_1, v_0\right) \] となり, \(n \to \infty\) でゼロに収束する. よって \(\left\{v_n\right\}\) はコーシー列であり, 完備性からある \(v^* \in S\) に収束する.

Step2 (\(v^*\) は不動点): 任意の \(n\) に対して, \(v_{n+1}\) を経由する三角不等式, 反復列の定義 \(v_{n+1} = T v_n\), \(T\) の縮小性を順に使うと \[ \begin{aligned} d\left(T v^*, v^*\right) &\leq d\left(T v^*, v_{n+1}\right) + d\left(v_{n+1}, v^*\right) && \text{(triangle inequality)} \\ &= d\left(T v^*, T v_n\right) + d\left(v_{n+1}, v^*\right) && \left(v_{n+1} = T v_n\right) \\ &\leq \beta\, d\left(v^*, v_n\right) + d\left(v_{n+1}, v^*\right) && \text{(contraction)} \end{aligned} \] である. 左辺は \(n\) によらない一方, Step1 より \(v_n \to v^*\) なので右辺の2項はどちらも \(n \to \infty\) でゼロに収束する. よって \(d\left(T v^*, v^*\right) = 0\), すなわち \(T v^* = v^*\).

Step3 (一意性): \(v, w\) がともに不動点なら \(d\left(v, w\right) = d\left(Tv, Tw\right) \leq \beta\, d\left(v, w\right)\) であり, \(\beta < 1\) より \(d\left(v, w\right) = 0\), すなわち \(v = w\).

Step4 (収束の速さ): \(d\left(v_n, v^*\right) = d\left(T^n v_0, T^n v^*\right) \leq \beta^n d\left(v_0, v^*\right)\).

ある写像が縮小写像かどうかを定義から直接確かめるのは面倒ですが, 経済学に現れる作用素には次の便利な十分条件があります (Blackwell 1965).

命題 A.2 (Blackwell の十分条件) \(T \colon B\left(X\right) \to B\left(X\right)\) が次の2条件を満たすなら, \(T\) は sup ノルムに関して係数 \(\beta\) の縮小写像である.

  1. 単調性: \(f \leq g\) (すべての \(x\) で \(f\left(x\right) \leq g\left(x\right)\)) ならば \(Tf \leq Tg\).
  2. 割引: ある \(\beta \in \left(0, 1\right)\) が存在して, 任意の定数 \(a \geq 0\) に対して \(T\left(f + a\right) \leq Tf + \beta a\).

証明. 任意の \(f, g\) に対して, すべての \(x\) で \(f\left(x\right) \leq g\left(x\right) + \left\| f - g \right\|_{\infty}\) が成り立つ. 単調性と割引を順に使うと \[ Tf \leq T\left(g + \left\| f - g \right\|_{\infty}\right) \leq Tg + \beta \left\| f - g \right\|_{\infty}. \] \(f\) と \(g\) を入れ替えれば逆向きの不等式も得られるので, すべての \(x\) で \(\left| \left(Tf\right)\left(x\right) - \left(Tg\right)\left(x\right) \right| \leq \beta \left\| f - g \right\|_{\infty}\) となり, sup をとって \(\left\| Tf - Tg \right\|_{\infty} \leq \beta \left\| f - g \right\|_{\infty}\).

A.3.2 ベルマン方程式への適用

動的計画法の章で扱った問題を一般形で書きます. 状態 \(x \in X\), 実行可能な選択の集合 \(\Gamma\left(x\right)\), 当期リターン \(u\left(x, a\right)\), 状態の遷移 \(x' \sim Q\left(\cdot \mid x, a\right)\), 割引因子 \(\beta \in \left(0, 1\right)\) とし, \(u\) は有界とします. ベルマン方程式は \[ V\left(x\right) = \max_{a \in \Gamma\left(x\right)} \left\{ u\left(x, a\right) + \beta\, \mathbb{E}\left[V\left(x'\right) \mid x, a\right] \right\} \tag{A.2}\] であり, 右辺を関数 \(V\) への操作とみなしたものがベルマン作用素 \(T\) です. \[ \left(TV\right)\left(x\right) = \max_{a \in \Gamma\left(x\right)} \left\{ u\left(x, a\right) + \beta\, \mathbb{E}\left[V\left(x'\right) \mid x, a\right] \right\}. \] 式 A.2 を解くことは, \(T\) の不動点を見つけることにほかなりません.

命題 A.3 (ベルマン作用素は縮小写像) \(u\) が有界なら, ベルマン作用素 \(T\) は \(B\left(X\right)\) 上の係数 \(\beta\) の縮小写像である. したがって 式 A.2 の有界な解 \(V^*\) はただ1つ存在し, 任意の初期関数 \(V_0\) からの価値関数反復 \(V_N = T V_{N-1}\) は \[ \left\| V_N - V^* \right\|_{\infty} \leq \beta^N \left\| V_0 - V^* \right\|_{\infty} \] を満たして \(V^*\) に収束する.

証明. \(u\) が有界 (\(\left|u\right| \leq \bar{u}\)) なら, \(\left|V\right| \leq M\) に対して \(\left|TV\right| \leq \bar{u} + \beta M\) なので \(T\) は \(B\left(X\right)\) を \(B\left(X\right)\) に写す. Blackwell の条件を確かめる.

単調性: \(f \leq g\) なら, どの \(\left(x, a\right)\) でも \(u\left(x, a\right) + \beta\, \mathbb{E}\left[f\right] \leq u\left(x, a\right) + \beta\, \mathbb{E}\left[g\right]\) であり, 各選択肢の値が大きくなるので max も大きくなる. よって \(Tf \leq Tg\).

割引: 定数 \(a \geq 0\) に対して \[ T\left(V + a\right)\left(x\right) = \max_{a' \in \Gamma\left(x\right)} \left\{ u\left(x, a'\right) + \beta\, \mathbb{E}\left[V\left(x'\right)\right] + \beta a \right\} = \left(TV\right)\left(x\right) + \beta a. \] よって 命題 A.2 より \(T\) は係数 \(\beta\) の縮小写像であり, \(B\left(X\right)\) は完備なので 定理 A.2 のすべての結論が従う.

この命題が, 数値計算パートで見た事実の理論的な裏付けです. 価値関数は存在して一意であり, VFI はどんな初期関数から始めても収束し, 収束の速さは \(\beta\) で決まります. \(\beta\) が1に近い (将来を重視する) 問題ほど収束が遅い, という数値計算上の経験則も, 誤差が \(\beta^N\) で減ることの直接の帰結です.1

停止基準と誤差の保証

実際の計算では真の \(V^*\) を知らないまま反復を止める必要があります. 隣り合う反復の差から, 真の誤差を評価できます.

命題 A.4 (事後誤差評価) \[ \left\| V_N - V^* \right\|_{\infty} \leq \frac{\beta}{1 - \beta} \left\| V_N - V_{N-1} \right\|_{\infty}. \]

証明. 三角不等式と縮小性より \[ \left\| V_N - V^* \right\|_{\infty} \leq \sum_{k=N}^{\infty} \left\| V_{k+1} - V_k \right\|_{\infty} \leq \sum_{j=1}^{\infty} \beta^j \left\| V_N - V_{N-1} \right\|_{\infty} = \frac{\beta}{1 - \beta} \left\| V_N - V_{N-1} \right\|_{\infty}. \]

数値計算パートの VFI で使った「更新幅 \(\left\| V_N - V_{N-1} \right\|_{\infty}\) が許容誤差 \(\varepsilon\) を下回ったら停止」という基準は, この命題によって真の誤差が \(\beta \varepsilon / \left(1 - \beta\right)\) 以下であることを保証します. 係数 \(\beta / \left(1 - \beta\right)\) は \(\beta = 0.96\) なら \(24\) です. 更新幅と真の誤差は1〜2桁ずれうるので, 許容誤差はその分だけ小さめに設定する必要があります.

価値関数が引き継ぐ性質

縮小写像の議論には, もうひとつ便利な使い方があります. \(B\left(X\right)\) の閉部分集合 \(S'\) (たとえば非減少関数の集合や凹関数の集合) に対して \(T\left(S'\right) \subset S'\) が示せれば, 不動点 \(V^*\) も \(S'\) に属します. 反復列がずっと \(S'\) の中にいて, \(S'\) が閉じているので極限も \(S'\) に残るからです.

命題 A.5 (単調性と凹性の継承) リターン \(u\left(x, a\right)\) が \(x\) について非減少で, 実行可能集合が拡大的 (\(x \leq \tilde{x}\) ならば \(\Gamma\left(x\right) \subset \Gamma\left(\tilde{x}\right)\)), 遷移が単調なら, \(V^*\) は \(x\) について非減少である. さらに \(u\) が凹, \(\Gamma\) のグラフが凸, 遷移が線形 (決定論的な線形遷移や凹性を保つ確率遷移) なら, \(V^*\) は凹である.

証明. 非減少な \(V\) に対して \(TV\) も非減少になることを見る. \(x \leq \tilde{x}\) とすると, どの \(a \in \Gamma\left(x\right)\) に対しても \(u\left(\tilde{x}, a\right) + \beta\, \mathbb{E}\left[V \mid \tilde{x}, a\right] \geq u\left(x, a\right) + \beta\, \mathbb{E}\left[V \mid x, a\right]\) であり (\(u\) の単調性と遷移の単調性), さらに \(\tilde{x}\) では選択肢が増えるので max は下がらない. よって \(\left(TV\right)\left(\tilde{x}\right) \geq \left(TV\right)\left(x\right)\). 非減少関数の集合は sup ノルムで閉じているので, 非減少な \(V_0\) から始めた反復列の極限 \(V^*\) も非減少である. 凹性も同様に, \(T\) が凹関数を凹関数に写すこと (凸結合の状態で凸結合の政策が実行可能であり, リターンが凹であること) を確かめればよい.

数値計算パートで補間 (関数近似の章) が素直に機能したのは, 近似対象の \(V^*\) がこうした形状の規則性を持つからです. 逆に, 離散選択が入って価値関数にキンクが生じる場合には, 結婚の部の frictionless marriage の章で見た対数和による平滑化が効いてきます.

縮小写像の枠組みは, サーチ理論の章での留保値の存在の議論にもそのまま使われています.

A.4 家計内配分

A.4.1 効率性と加重和最大化の双対性

証明. (\(\Leftarrow\)) \(\mu \in \left(0, 1\right)\) とする. もし \(\left(u_W^*, u_H^*\right)\) を Pareto 支配する配分が \(\mathcal{U}\) にあれば, その配分は加重和 式 5.2 を厳密に大きくするので, 最大性に矛盾する. (\(\mu\) が \(0\) または \(1\) の端点の場合は, 最大化解のうち Pareto 効率的なものを選べばよい.)

(\(\Rightarrow\)) \(\left(u_W^*, u_H^*\right)\) が Pareto 効率的とする. 集合 \(A = \left\{ \boldsymbol{u} \in \mathbb{R}^2 : u_W > u_W^*,\ u_H > u_H^* \right\}\) は凸で, 効率性より \(\mathcal{U}\) と交わらない. 分離超平面定理より, ゼロでないベクトル \(\left(\mu, 1 - \mu\right)\) (正規化済み) が存在して, \(\mathcal{U}\) 上の任意の点で \(\mu u_W + \left(1 - \mu\right) u_H \leq \mu u_W^* + \left(1 - \mu\right) u_H^*\) となる. \(A\) の形状より \(\mu \geq 0\) かつ \(1 - \mu \geq 0\) であり, \(\left(u_W^*, u_H^*\right)\) は 式 5.2 の解である.

A.4.2 Unitary model は collective model の特殊ケース

証明. \(\mu\left(\boldsymbol{\pi}, Y, \boldsymbol{z}\right) = \bar{\mu}\) が定数なら, collective model の家計問題 \[ \max_{\boldsymbol{q}_W, \boldsymbol{q}_H, \boldsymbol{Q}}\ \bar{\mu}\, u_W\left(\boldsymbol{q}_W, \boldsymbol{Q}\right) + \left(1 - \bar{\mu}\right) u_H\left(\boldsymbol{q}_H, \boldsymbol{Q}\right) \quad \text{s.t.} \quad \boldsymbol{p} \cdot \left(\boldsymbol{q}_W + \boldsymbol{q}_H\right) + \boldsymbol{P} \cdot \boldsymbol{Q} \leq Y \] の目的関数は, 価格・所得・distribution factor によらない1つの関数 式 5.3 であり, 制約は unitary model と同じ家計の予算制約である. したがってこれは unitary model の家計問題そのもので, 需要は \(\boldsymbol{q}\left(\boldsymbol{\pi}, Y\right) = \tilde{\boldsymbol{q}}\left(\boldsymbol{\pi}, Y, \bar{\mu}\right)\) と書ける.

(Income pooling) 需要は総所得 \(Y\) を通じてしか所得に依存せず, distribution factor \(\boldsymbol{z}\) にも依存しないので, \(\partial \boldsymbol{q} / \partial \boldsymbol{z} = \boldsymbol{0}\) である. 式 5.5 でいえば \(\partial \mu / \partial z_k = 0\) の場合にあたる.

(Slutsky 対称性) 1つの効用関数を予算制約のもとで最大化した需要なので, 標準的な消費者理論から Slutsky 行列は対称かつ負値半定符号である. 式 5.6 でいえば, \(\mu\) が定数なので \(\boldsymbol{b} = \nabla_{\boldsymbol{\pi}}\, \mu + \boldsymbol{q}\, \partial \mu / \partial Y = \boldsymbol{0}\) となり, \(S = \Sigma\) となる場合にあたる.

A.4.3 Nash 交渉と collective model の双対性

証明.

  1. フロンティア上で \(u_H = \Psi\left(u_W\right)\) を代入すると, Nash 交渉問題は \(\left(u_W - T_W\right)^{\beta}\left(\Psi\left(u_W\right) - T_H\right)^{1-\beta}\) の最大化になる. 対数を取って微分した一階条件は \[ \frac{\beta}{u_W^* - T_W} + \frac{\left(1 - \beta\right)\Psi'\left(u_W^*\right)}{\Psi\left(u_W^*\right) - T_H} = 0 \quad \Longleftrightarrow \quad -\Psi'\left(u_W^*\right) = \frac{\beta}{1 - \beta} \cdot \frac{u_H^* - T_H}{u_W^* - T_W}. \] 一方, collective model の目的関数 \(\mu u_W + \left(1 - \mu\right) \Psi\left(u_W\right)\) の一階条件は \(-\Psi'\left(u_W\right) = \mu / \left(1 - \mu\right)\) である. \(\Psi\) の凹性からどちらの一階条件も十分条件なので, 式 5.8 のもとで両者の解は一致する.

  2. 効率的な内点 \(\left(u_W^\circ, u_H^\circ\right)\) における接線の傾きを \(-\lambda = \Psi'\left(u_W^\circ\right) < 0\) とする. 任意の \(a > 0\) に対して脅威点を \(T_W = u_W^\circ - a\), \(T_H = u_H^\circ - \lambda a \left(1 - \beta\right) / \beta\) と選べば, \(\left(u_W^\circ, u_H^\circ\right)\) は (1) の一階条件を満たし, 凹性よりこの脅威点に対する Nash 交渉解になる.

A.4.4 限定コミットメントのもとでの Pareto ウェイトの動き

式 5.12 を導きます. 導出は Theloudis et al. (2025) に従います.

証明. 期 \(t\) までに実現したショック (賃金 \(\boldsymbol{W}_t\), distribution factor \(\boldsymbol{Z}_t\) など) の履歴を \(s^t\) と書き, 簡単のためショックは離散的とする. 家計が選ぶのは労働時間 \(h_{1t}, h_{2t}\) と貯蓄 \(a_{t+1}\) で, 履歴 \(s^t\) に応じて決めてよい. 消費 \(q_t\) は予算制約から \[ q_t = \left(1 + r\right) a_t + w_{1t} h_{1t} + w_{2t} h_{2t} - a_{t+1} \] と決まるので (\(r\) は利子率, \(a_0\) は所与で \(a_{\bar{t} + 1} = 0\)), これを効用に代入し, \(u_{jt} = u_j\left(q_t, h_{jt}\right)\) と略記する. 予算制約は Theloudis et al. (2025) では税・給付を通した可処分所得で書かれているが, 以下の導出には関係しないので省いた. 結婚時のウェイト \(\mu_{j0} = \mu_j\left(\Omega_0\right)\) のもとで, 限定コミットメントの家計の問題は \[ \begin{aligned} \max_{\left\{h_{1t}, h_{2t}\right\}_{t=0}^{\bar{t}},\ \left\{a_{t+1}\right\}_{t=0}^{\bar{t} - 1}}\ & \sum_{j=1}^{2} \mu_{j0}\, \mathbb{E}_0 \sum_{t=0}^{\bar{t}} \beta^t u_{jt} \\ \text{s.t.}\ & \mathbb{E}_t \sum_{\tau = t}^{\bar{t}} \beta^{\tau - t} u_{j\tau} \geq \tilde{V}_{jt}\left(\Omega_{jt}\right), \quad t = 1, \ldots, \bar{t},\ j = 1, 2 \end{aligned} \] である. 制約は参加制約 式 5.11 で, 各期のすべての履歴 \(s^t\) で課される. 参加制約を外せば完全コミットメントの問題になる.

参加制約に Lagrange 乗数を掛けて目的関数に入れる. 履歴 \(s^t\) での \(j\) の参加制約の乗数を \(\beta^t \Pr\left(s^t\right) \nu_{jt}\left(s^t\right)\) と基準化する. \(\nu_{jt}\left(s^t\right) \geq 0\) で, 制約が等号で成り立たない履歴ではゼロである (相補スラック条件). 確率で重み付けた和は期待値なので, 期 \(t\) の参加制約に乗数を掛けてすべての履歴について足したものは \[ \sum_{s^t} \beta^t \Pr\left(s^t\right) \nu_{jt}\left(s^t\right) \left(\mathbb{E}_t \sum_{\tau = t}^{\bar{t}} \beta^{\tau - t} u_{j\tau} - \tilde{V}_{jt}\right) = \mathbb{E}_0 \left[\beta^t \nu_{jt} \left(\mathbb{E}_t \sum_{\tau = t}^{\bar{t}} \beta^{\tau - t} u_{j\tau} - \tilde{V}_{jt}\right)\right] \] となる. したがって Lagrangian は \[ \mathcal{L} = \sum_{j} \mu_{j0}\, \mathbb{E}_0 \sum_{t=0}^{\bar{t}} \beta^t u_{jt} + \sum_{j} \mathbb{E}_0 \sum_{t=1}^{\bar{t}} \beta^t \nu_{jt} \left(\mathbb{E}_t \sum_{\tau = t}^{\bar{t}} \beta^{\tau - t} u_{j\tau} - \tilde{V}_{jt}\right) \] である.

あとは第2項を整理する. \(\nu_{jt}\) は履歴 \(s^t\) の関数で期 \(t\) に分かっているので, 繰り返し期待値の法則から \[ \mathbb{E}_0 \left[\beta^t \nu_{jt}\, \mathbb{E}_t \sum_{\tau = t}^{\bar{t}} \beta^{\tau - t} u_{j\tau}\right] = \mathbb{E}_0 \sum_{\tau = t}^{\bar{t}} \beta^{\tau} \nu_{jt}\, u_{j\tau} \] となる. さらに和の順序を入れ替えると \[ \sum_{t=1}^{\bar{t}} \sum_{\tau = t}^{\bar{t}} \beta^{\tau} \nu_{jt}\, u_{j\tau} = \sum_{\tau = 1}^{\bar{t}} \beta^{\tau} u_{j\tau} \sum_{t=1}^{\tau} \nu_{jt} \] なので, Lagrangian は \[ \mathcal{L} = \mathbb{E}_0 \sum_{\tau = 0}^{\bar{t}} \beta^{\tau} \sum_j \mu_{j\tau}\, u_{j\tau} - \sum_j \mathbb{E}_0 \sum_{t=1}^{\bar{t}} \beta^t \nu_{jt}\, \tilde{V}_{jt}, \qquad \mu_{j\tau} := \mu_{j0} + \sum_{t=1}^{\tau} \nu_{jt} \] と書ける. 第1項は, 期ごと・履歴ごとに変わるウェイト \(\mu_{j\tau}\) を付けた効用の加重和である. 期 \(\tau\) の効用にかかる重みは \(\mu_{j\tau}\) であり, 定義から \(\mu_{j\tau} = \mu_{j, \tau - 1} + \nu_{j\tau}\) が成り立つ. これが 式 5.12 である. 参加制約のない完全コミットメントでは \(\nu_{jt} = 0\) なので, \(\mu_{j\tau} = \mu_{j0}\) が一定になる. 外部オプションの価値 \(\tilde{V}_{jt}\) が家計の選択 (離婚時に分ける資産など) に依存する場合は, 第2項から各期の目的関数に追加の項が加わるが (Theloudis et al. 2025), 効用にかかる重みの動きは変わらない.

A.6 マッチング理論

A.6.1 距離関数の性質

証明. まず \(D_{xy}\) が well-defined であることを確かめる. \(Z\left(u, v\right) = \left\{z \in \mathbb{R} : \left(u - z, v - z\right) \in \mathcal{F}_{xy}\right\}\) とおく. \(\mathcal{F}_{xy}\) は空でないので点 \(\left(a, b\right) \in \mathcal{F}_{xy}\) がとれ, \(z \geq \max\left\{u - a, v - b\right\}\) なら \(\left(u - z, v - z\right) \leq \left(a, b\right)\) なので, 下方に包括的であることから \(z \in Z\left(u, v\right)\) である. \(\mathcal{F}_{xy}\) は閉なので \(Z\left(u, v\right)\) も閉であり, \(z \to -\infty\) では両方の座標が \(+\infty\) に発散するので, 上に有界であることから \(Z\left(u, v\right)\) は下に有界である. よって最小値 \(D_{xy}\left(u, v\right)\) が存在する.

  1. \(\left(u, v\right) \in \mathcal{F}_{xy}\) なら \(0 \in Z\left(u, v\right)\) なので \(D_{xy}\left(u, v\right) \leq 0\) である. 逆に \(D_{xy}\left(u, v\right) = z \leq 0\) なら \(\left(u, v\right) \leq \left(u - z, v - z\right) \in \mathcal{F}_{xy}\) なので, 下方に包括的であることから \(\left(u, v\right) \in \mathcal{F}_{xy}\) である. また \(D_{xy}\left(u, v\right) = 0\) は, \(\left(u, v\right) \in \mathcal{F}_{xy}\) かつ任意の \(\varepsilon > 0\) について \(\left(u + \varepsilon, v + \varepsilon\right) \notin \mathcal{F}_{xy}\) であること, すなわち \(\left(u, v\right)\) がフロンティア上にあることと同値である.

  2. \(u \leq u'\), \(v \leq v'\) とする. \(z \in Z\left(u', v'\right)\) なら \(\left(u - z, v - z\right) \leq \left(u' - z, v' - z\right) \in \mathcal{F}_{xy}\) なので \(z \in Z\left(u, v\right)\) である. よって \(Z\left(u', v'\right) \subseteq Z\left(u, v\right)\) であり, \(D_{xy}\left(u, v\right) \leq D_{xy}\left(u', v'\right)\) が成り立つ. 狭義の部分は (3) を使う. \(u < u'\), \(v < v'\) なら \(\delta = \min\left\{u' - u, v' - v\right\} > 0\) について \(\left(u + \delta, v + \delta\right) \leq \left(u', v'\right)\) なので, \(D_{xy}\left(u, v\right) + \delta = D_{xy}\left(u + \delta, v + \delta\right) \leq D_{xy}\left(u', v'\right)\) となる.

  3. \(z = z' + a\) と置き換えると \[ D_{xy}\left(a + u, a + v\right) = \min\left\{z : \left(u - \left(z - a\right), v - \left(z - a\right)\right) \in \mathcal{F}_{xy}\right\} = a + \min\left\{z' : \left(u - z', v - z'\right) \in \mathcal{F}_{xy}\right\} = a + D_{xy}\left(u, v\right). \]

  4. \(\underline{\delta} = \min\left\{u' - u, v' - v\right\}\), \(\bar{\delta} = \max\left\{u' - u, v' - v\right\}\) とおくと, \(\left(u + \underline{\delta}, v + \underline{\delta}\right) \leq \left(u', v'\right) \leq \left(u + \bar{\delta}, v + \bar{\delta}\right)\) である. (2) と (3) から \[ D_{xy}\left(u, v\right) + \underline{\delta} \leq D_{xy}\left(u', v'\right) \leq D_{xy}\left(u, v\right) + \bar{\delta} \] が成り立つ. \(\left(u', v'\right) \to \left(u, v\right)\) のとき \(\underline{\delta}, \bar{\delta} \to 0\) なので, \(D_{xy}\) は連続である.

A.6.2 取り分はタイプの組で決まる

Galichon et al. (2019) の付録に従います.

証明.

  1. 各男性 \(i\) について, \(u_i\) を与える最大化の解を \(y\) とし, その \(y\) ごとに男性を分ける. タイプ \(x\) の男性のうち解が \(y\) である人の集合 \(I_{xy}\) の質量は \(\partial G\left(U\right) / \partial U_{xy}\) である. 同様に, タイプ \(y\) の女性のうち解が \(x\) である人の集合 \(J_{xy}\) の質量は \(\partial H\left(V\right) / \partial V_{xy}\) である. 市場清算 \(\mu = \nabla G\left(U\right) = \nabla H\left(V\right)\) より両者の質量は等しいので, \(I_{xy}\) の男性と \(J_{xy}\) の女性を任意に組み合わせて \(\mu_{ij}\) を作る. 解が独身の人は独身のままにする.

このマッチングが個人均衡の3条件を満たすことを確かめる. 定義から, 任意の男性 \(i\) (タイプ \(x\)) と女性 \(j\) (タイプ \(y\)) について \(u_i - \varepsilon_{iy} \geq U_{xy}\), \(v_j - \eta_{xj} \geq V_{xy}\) である. 距離関数の単調性 (補題 7.1) と実行可能性より \[ D_{xy}\left(u_i - \varepsilon_{iy},\ v_j - \eta_{xj}\right) \geq D_{xy}\left(U_{xy}, V_{xy}\right) = 0 \] であり, ブロッキングペアは存在しない. マッチした \(i \in I_{xy}\), \(j \in J_{xy}\) では \(u_i - \varepsilon_{iy} = U_{xy}\), \(v_j - \eta_{xj} = V_{xy}\) なので等号が成り立つ. 独身者は最大化の解が独身なので \(u_i = \varepsilon_{i0}\), \(v_j = \eta_{0j}\) であり, 個人合理性も成り立つ.

  1. 個人均衡の安定性から, すべての \(i, j\) について \(D_{x_i y_j}\left(u_i - \varepsilon_{i y_j},\ v_j - \eta_{x_i j}\right) \geq 0\) である. \(D_{xy}\) の連続性と単調性から, タイプ \(x\) の男性とタイプ \(y\) の女性について下限をとっても \(D_{xy}\left(U_{xy}, V_{xy}\right) \geq 0\) が成り立つ.

\(U_{xy}\) の定義から, タイプ \(x\) の男性 \(i\) はすべての \(y\) について \(u_i \geq U_{xy} + \varepsilon_{iy}\) を満たし, 個人合理性から \(u_i \geq \varepsilon_{i0}\) である. よって \(u_i \geq \max_{y \in \mathcal{Y}_0}\left\{U_{xy} + \varepsilon_{iy}\right\}\) である. この不等号が狭義だとすると, すべての \(y\) について \(u_i - \varepsilon_{iy} > U_{xy}\) である. \(D_{xy}\) は狭義増加なので, タイプ \(y\) の任意の女性 \(j\) について \[ D_{xy}\left(u_i - \varepsilon_{iy},\ v_j - \eta_{xj}\right) > D_{xy}\left(U_{xy},\ v_j - \eta_{xj}\right) \geq D_{xy}\left(U_{xy}, V_{xy}\right) \geq 0 \] となり, \(i\) は誰ともマッチできない (マッチしたペアでは等号が必要). すると \(i\) は独身なので \(u_i = \varepsilon_{i0}\) でなければならないが, これは \(u_i > \varepsilon_{i0}\) に矛盾する. したがって \(u_i = \max_{y \in \mathcal{Y}_0}\left\{U_{xy} + \varepsilon_{iy}\right\}\) であり, 女性についても同様である.

各人は自分の最大化の解のタイプと組むので, タイプ \(\left(x, y\right)\) の組の質量は男性側から見て \(\partial G\left(U\right) / \partial U_{xy}\), 女性側から見て \(\partial H\left(V\right) / \partial V_{xy}\) であり, 両者は一致する. ショックの分布の密度が消えないので, すべての \(\left(x, y\right)\) でこの質量は正であり, マッチした組では \(u_i - \varepsilon_{iy} = U_{xy}\), \(v_j - \eta_{xj} = V_{xy}\) かつ \(D_{xy}\left(U_{xy}, V_{xy}\right) = 0\) が成り立つ. よって \(\left(U, V\right)\) は集計均衡を与える.

A.6.3 安定性と余剰最大化の双対性

証明. 主問題では \(\mu'_{ij} \in \left[0, 1\right]\) を \(i\) と \(j\) がマッチする確率と読み, 残りの確率は独身とする (制約行列が全ユニモジュラなので, 端点解は \(\left\{0, 1\right\}\) に値をとる).

Step1 (弱双対性): 主問題の任意の実行可能解 \(\mu'\) と双対問題の任意の実行可能解 \(\left(u, v\right)\) に対して, \[ \sum_{i, j} \mu'_{ij} \Phi_{ij} \leq \sum_{i, j} \mu'_{ij} \left(u_i + v_j\right) \leq \sum_i u_i + \sum_j v_j. \] 第1の不等式は双対制約 \(u_i + v_j \geq \Phi_{ij}\), 第2の不等式は実行可能性と \(u, v \geq 0\) による.

Step2 (安定 \(\Rightarrow\) 最適): \(\left(\mu, u, v\right)\) が安定なら, 式 7.5 より \(\left(u, v\right)\) は双対問題の実行可能解である. マッチした組では \(u_i + v_j = \Phi_{ij}\), 独身者の利得は \(0\) なので, Step1 の2つの不等式がともに等号で成り立ち, \[ \sum_{i, j} \mu_{ij} \Phi_{ij} = \sum_i u_i + \sum_j v_j. \] 弱双対性より, 左辺の値はどの実行可能な \(\mu'\) でも超えられず, 右辺の値はどの実行可能な \(\left(u', v'\right)\) でも下回れない. よって \(\mu\) は主問題の解, \(\left(u, v\right)\) は双対問題の解である.

Step3 (最適 \(\Rightarrow\) 安定): \(\mu\) を主問題の解とする. 線形計画の双対定理より, 双対問題の解 \(\left(u, v\right)\) が存在して両問題の値が一致する. 値の一致を書き直すと \[ \sum_{i, j} \mu_{ij} \left(u_i + v_j - \Phi_{ij}\right) + \sum_i \left(1 - \sum_j \mu_{ij}\right) u_i + \sum_j \left(1 - \sum_i \mu_{ij}\right) v_j = 0 \] となり, 各項は双対制約と実行可能性より非負である. よってすべての項がゼロ, すなわちマッチした組では \(u_i + v_j = \Phi_{ij}\), 独身者の利得はゼロであり, \(\left(\mu, u, v\right)\) は実行可能かつ 式 7.5 を満たす安定マッチングである. 主問題は有界な線形計画なので解を持ち, 安定マッチングの存在も従う.

A.6.4 Becker の同類婚定理

証明. 命題 7.3 より, 安定マッチングは総余剰を最大化する. \(x < x'\) がそれぞれ \(y'\), \(y\) (\(y < y'\)) とマッチしていたとすると, 相手を交換すれば優モジュラ性より総余剰が厳密に増加し, 最大性に矛盾する. よって安定マッチングは PAM であり, タイプの順位同士を組み合わせる配置として一意に定まる. 劣モジュラ性の場合も同様である.

A.6.5 連続分布のもとでの分配

証明. 式 7.6 より \(u\left(x\right) = \max_z \left\{ \Phi\left(x, z\right) - v\left(z\right) \right\}\) であり, 最大は実際の相手 \(z = \varphi\left(x\right)\) で達成される. 包絡線定理より, 最大値関数の微分は目的関数の \(x\) に関する偏微分を最適解で評価したものに等しく, 式 7.9 を得る. 積分すれば \(u\) が定数 \(K\) を除いて定まり, \(v\) はマッチした組の実行可能性 \(u + v = \Phi\) から定まる. \(u\) の定数を \(+K\) 動かすことは \(v\) の定数を \(-K\) 動かすことと表裏である.

A.7 摩擦のない市場

A.7.1 ロジットの選択確率と対数和

結婚の部の frictionless marriage の章で述べた, ロジットの基本命題を証明します. いずれも第一種極値分布の分布関数 \(F\left(\varepsilon\right) = e^{-e^{-\varepsilon}}\) を直接使う計算です.

まず 命題 8.1 (ロジットの選択確率) を示します.

証明. \(\varepsilon_{ni} = s\) で条件付けると, 選択肢 \(i\) が選ばれるのは \(\varepsilon_{nj} < s + V_{ni} - V_{nj}\) がすべての \(j \neq i\) で成り立つときである. \(\varepsilon_{nj}\) は独立なので, 条件付き確率は分布関数の積になる. \[ \text{Prob}\left(\text{choose } i \mid \varepsilon_{ni} = s\right) = \prod_{j \neq i} e^{-e^{-\left(s + V_{ni} - V_{nj}\right)}}. \] これを \(\varepsilon_{ni}\) の密度で積分すると \[ P_{ni} = \int_{-\infty}^{\infty} \left(\prod_{j \neq i} e^{-e^{-\left(s + V_{ni} - V_{nj}\right)}}\right) e^{-s} e^{-e^{-s}}\, ds. \] \(V_{ni} - V_{ni} = 0\) に注意すると, 最後の因子 \(e^{-e^{-s}}\) は積の \(j = i\) の項として取り込める. 指数をまとめると \[ P_{ni} = \int_{-\infty}^{\infty} \exp\left(-\sum_{j} e^{-\left(s + V_{ni} - V_{nj}\right)}\right) e^{-s}\, ds = \int_{-\infty}^{\infty} \exp\left(-e^{-s} \sum_{j} e^{-\left(V_{ni} - V_{nj}\right)}\right) e^{-s}\, ds. \] \(t = e^{-s}\) と置換する (\(dt = -e^{-s}\, ds\) で, \(s \colon -\infty \to \infty\) のとき \(t \colon \infty \to 0\)). \[ P_{ni} = \int_{0}^{\infty} \exp\left(-t \sum_{j} e^{-\left(V_{ni} - V_{nj}\right)}\right) dt = \left[\frac{\exp\left(-t \sum_{j} e^{-\left(V_{ni} - V_{nj}\right)}\right)}{-\sum_{j} e^{-\left(V_{ni} - V_{nj}\right)}}\right]_{0}^{\infty} = \frac{1}{\sum_{j} e^{-\left(V_{ni} - V_{nj}\right)}} = \frac{e^{V_{ni}}}{\sum_{j} e^{V_{nj}}}. \]

次に 命題 8.2 (最大効用の分布) を示します.

証明. 独立性より, 最大値の分布関数は各分布関数の積である. \[ \text{Prob}\left(\max_j U_j \leq x\right) = \prod_{j} \text{Prob}\left(\varepsilon_j \leq x - V_j\right) = \prod_{j} e^{-e^{-\left(x - V_j\right)}} = \exp\left(-\sum_j e^{-\left(x - V_j\right)}\right). \] 指数の中を整理すると \[ \sum_j e^{-\left(x - V_j\right)} = e^{-x} \sum_j e^{V_j} = e^{-\left(x - \ln \sum_j e^{V_j}\right)} \] となり, これは位置パラメータ \(\ln \sum_j e^{V_j}\) の第一種極値分布の分布関数である.

命題 8.3 (対数和公式) は, ここからほぼ直ちに従います.

証明. Step1: 標準的な第一種極値分布の平均が \(\gamma\) であることを示す. \(\varepsilon\) の密度 \(f\left(s\right) = e^{-s} e^{-e^{-s}}\) に対して \(t = e^{-s}\) と置換すると (\(s = -\ln t\)), \[ \mathbb{E}\left[\varepsilon\right] = \int_{-\infty}^{\infty} s\, e^{-s} e^{-e^{-s}}\, ds = \int_{0}^{\infty} \left(-\ln t\right) e^{-t}\, dt = \gamma. \] 最後の等号はガンマ関数の微分に関する既知の結果 \(\int_0^{\infty} e^{-t} \ln t\, dt = \Gamma'\left(1\right) = -\gamma\) による.

Step2: 命題 8.2 より, \(\max_j U_j\) は「標準的な第一種極値分布に従う確率変数に定数 \(\ln \sum_j e^{V_j}\) を足したもの」と同じ分布を持つ. よって期待値は \(\ln \sum_j e^{V_j} + \gamma\) である.

A.8 結婚と出生

A.8.1 閉形式解と賃金の効果

証明. \(h = \left(\theta + e\right)^{\gamma}\) を代入すると, 目的関数は \(\log c + \delta \log n + \delta \gamma \log \left(\theta + e\right)\) となる. 予算制約より \(c = w - n\left(\phi w + p e\right)\).

\(n\) と \(e\) の一階条件はそれぞれ \[ \frac{\phi w + p e}{c} = \frac{\delta}{n}, \qquad \frac{n p}{c} = \frac{\delta \gamma}{\theta + e}. \] 2本の比を取ると \(\gamma \left(\phi w + p e\right) = p \left(\theta + e\right)\) となり, これを解いて \(e\) の式を得る. \(n\) の一階条件 \(n \left(\phi w + p e\right) = \delta c\) を予算制約に代入すると \(c = w - \delta c\), すなわち \(c = w / \left(1 + \delta\right)\). また \(e\) の式より \(\phi w + p e = \left(\phi w - p \theta\right) / \left(1 - \gamma\right)\) なので, \[ n = \frac{\delta c}{\phi w + p e} = \frac{\delta}{1 + \delta} \cdot \frac{w \left(1 - \gamma\right)}{\phi w - p \theta} = \frac{\delta}{1 + \delta} \cdot \frac{1-\gamma}{\phi - \frac{p}{w}\theta}. \] 比較静学は式から直ちに従う. \(w\) が上がると分母の \(\phi - p\theta/w\) が大きくなるので \(n\) は減少し, \(\gamma \phi w - p \theta\) が大きくなるので \(e\) は増加する.

A.8.2 女性の賃金と出生

証明. 式 9.1 を \(w_f\) で微分すると, \(\partial \pi / \partial w_f = \left(1 - s\right) \phi\) より \[ \frac{\partial n}{\partial w_f} = \frac{\delta}{1 + \delta} \cdot \frac{\pi\left(s\right) - \left(w_m + w_f\right) \left(1 - s\right) \phi}{\pi\left(s\right)^2}. \] 分子は \(\psi + s p_s \phi + \left(1 - s\right) w_f \phi - \left(1 - s\right) w_m \phi - \left(1 - s\right) w_f \phi = \psi + \left(s p_s - \left(1 - s\right) w_m\right) \phi\) である. これは \(s\) の増加関数で, \(s \left(p_s + w_m\right) \phi = w_m \phi - \psi\) のときゼロになる. \(\psi < w_m \phi\) なら \(s^* > 0\), また \(w_m \phi - \psi < \left(p_s + w_m\right) \phi\) なので \(s^* < 1\) である.


  1. なお, 式 A.2 の解が逐次問題 (無限和の最大化) の価値関数と一致することは, 有界性のもとで別途確認できます (verification argument). 直感的には, ベルマン方程式を \(N\) 回展開すると逐次問題の \(N\) 期打ち切りと残差 \(\beta^N V\) に分解でき, 残差は消えていくためです.↩︎

  2. \(g\left(\infty, x\right) \cdot \frac{d \infty}{d x}\) のような項を書いてゼロとみなすのは誤りである. 上端が \(x\) に依存する場合にのみ, その項が立つ.↩︎