2  著作権と引用

この章では, レポートやスライドを作るときに必要な「引用」の基本を学びます.

2.1 著作権

著作権は, 文章・画像・図表・写真・音楽・プログラムなどの「著作物」を保護します. 他人の著作物を利用するときは, 原則として許可(ライセンス)が必要ですが, 一定の条件を満たす「引用」は例外として許されます (著作権法 第32条)

ライセンス

著作物を利用するための許可のことを「ライセンス」といいます. ライセンスには, 著作物をどのように利用できるか(商用利用の可否, 改変の可否など)や, 利用するときに何を守る必要があるか(出典表示の要否など)が定められています.

Example 2.1 (Creative Commons) Creative Commons(CC)は, 「出典表示が必要か」「改変してよいか」「商用利用してよいか」などの条件を, 分かりやすいマークで示すためのライセンスです. 下の CC マークをクリックすると, それぞれのライセンス概要に移動できます.

レポート等で使うときは, マークの見た目だけで判断せず, 「表示(BY)」「非営利(NC)」「改変禁止(ND)」「継承(SA)」の意味を確認して, 自分の用途に合うかチェックしましょう.

Example 2.2 (Unsplash) Unsplashは, 商用・非商用を問わず無料で高品質な写真を提供する素材サイトです. ライセンス の内容を確認してみてください.

Photo by Jeremy Bishop on Unsplash.

Photo by Jeremy Bishop on Unsplash.

そのほか, いらすとや なども無料で利用できる素材サイトですが, 利用規約をよく確認してから使いましょう. またAI生成画像の利用も, 著作権やライセンスの問題が複雑であることを理解してから行うのが大事です.

Exercise 2.1 (ウェブサイト) このウェブサイト 自体も, 著作権者である私 (柳本和春) が, ライセンスを付与して公開しています. GitHubのレポジトリ でライセンスを確認してみてください.

引用

著作権法第32条では, 「公正な慣行に合致」し, 「引用の目的上正当な範囲内」であれば, 著作物を引用することができると定められています. 実用上, レポートなどでは, 次の点を満たしているかをチェックすると安全です.

  • 引用が必要: 引用しないと議論が成り立たない
  • 主従関係が明確: 自分の文章が主, 引用は従(引用の分量が過剰にならない)
  • 引用部分が区別できる: かぎ括弧, 引用ブロック, 図表のキャプション等で明確に区切る
  • 改変しない: 原文を勝手に書き換えない(省略は…等で示す)
  • 出所を示す: どこから持ってきたかを明記する(著者・年, ページ, URL など)

2.2 引用の種類と書き方

直接引用

  • 引用箇所は 「」 や引用ブロックで囲む
  • ページ番号がある資料は, できるだけページ (または章・節) も示す
  • 引用は必要最小限にとどめる(主従関係を保つため)

Example 2.3 (直接引用)  

  • 先行研究では「…」と述べられている(Hamermesh and Biddle (1994), p. 97).

要約・言い換え(パラフレーズ)

文章を自分の言葉で書き直しても, 元のアイデアや知見に依拠しているなら出典が必要です. 言い換えたから引用不要というわけではありません.

Example 2.4 (要約・言い換え)  

  • 先行研究では, あるアルゴリズムが効率的であることが示されている (Hamermesh and Biddle 1994).
  • Hamermesh and Biddle (1994) は, あるアルゴリズムの効率性を示した.

孫引き

何かを引用しているものをさらに引用することを「孫引き」といいます. 原則として, 一次資料を確認して引用しなければなりません.

Example 2.5 (Wikipedia) Wikipedia自体がすでに存在する資料から引用して作られている二次資料であるため, 引用元として使用するのは不適切です. Wikipedia内で引用されている一次資料を確認して, そちらを引用するのが望ましいです.

Example 2.6 (偉人の名言) ネットで “アインシュタイン 名言” などと検索すると, 出典 (どの著作の何ページか) が示されていない「名言」が大量に出てきます. 名言のまとめサイトは, それらの孫引きをさらにまとめていることが多いので, ほとんど信用性に欠けます.

  • 「常識とは18歳までに身につけた偏見のコレクションである」: アインシュタインの言葉とされるが, 出典は不明
  • 「パンがなければケーキを食べればいいじゃない」: マリー・アントワネットの言葉とされるが, 出典は不明

引用スタイル

引用スタイルは, 本文中の引用の見え方参考文献リストの並び・表記 を決めるルールです.

Example 2.7 (著者・年, author-date) 本文中は (著者, 年) 形式. 人文・社会系でよく見ます.

  • 先行研究では, あるアルゴリズムが効率的であることが示されている (Hamermesh and Biddle 1994).
  • Hamermesh and Biddle (1994) は, あるアルゴリズムの効率性を示した

Example 2.8 (番号, numeric) 本文中は [1] のような番号. 工学・医学系でよく見ます.

  • 先行研究では, あるアルゴリズムが効率的であることが示されている [1].
  • Knuth [1] は, あるアルゴリズムの効率性を示した

Example 2.9 (脚注中心, notes/footnote) 本文は脚注番号で示し, 脚注に書誌情報を出す形式.

  • 先行研究では, あるアルゴリズムが効率的であることが示されている.1

どれが「正しい」というより, 分野・授業・学会の慣習に合わせて統一する のが大事です. この授業では, 経済学の論文でよく使われるChicago author-date(著者・年) を基本にします.

2.3 Zoteroによる文献管理

Zoteroを使うと, 文献情報 (著者, 年, タイトル, DOI など) を整理して, BibTeX形式として書き出せます.

NoteBibTeXとは

BibTeXは, 文献情報を管理するためのフォーマットの一つです. 文献ごとに @article@book などのエントリータイプを指定し, キーと値のペアで書誌情報を記述します. 例えば, Knuthの論文をBibTeXで表すと次のようになります.

@article{hamermesh1994,
  author = {Knuth, Donald E.},
  title = {Literate Programming},
  year = {1984},
  issue_date = {May 1984},
  publisher = {Oxford University Press, Inc.},
  address = {USA},
  volume = {27},
  number = {2},
  issn = {0010-4620},
  url = {https://doi.org/10.1093/comjnl/27.2.97},
  doi = {10.1093/comjnl/27.2.97},
  journal = {Comput. J.},
  month = may,
  pages = {97–111},
  numpages = {15}
}

元々はLaTeXで文献管理するためのフォーマットですが, QuartoでもBibTeX形式のファイルを読み込んで引用に利用できます.

ZoteroからBibTeXファイルを作る手順は次の通りです.

TipZotero → BiBTeX
  1. コレクションを好きな名前で作る
  2. Zotero に文献を入れる (ブラウザ拡張, ドラッグ&ドロップ, DOIなど)
  3. メタデータを確認・修正する (著者名の表記ゆれ, 年, 雑誌名など)
  4. references.bib にエクスポートする (BibTeX形式)

なお, Zotero拡張のBetter BibTeX を導入することで, BiBTeXファイルを自動で更新するなどの便利な機能が使えるようになります.

1. コレクションを作る

Zoteroでは全ての文献は「ライブラリ」に属します. ライブラリには複数の「コレクション」を作ることができ, 基本的には文献を管理したいプロジェクト (レポート, 論文) ごとに作成します. コレクションはフォルダのようなもので, 同じ文献を複数のコレクションに入れることもできます.

2. Zoteroに文献を入れる

Tipメタデータの取得

ZoteroはDOIやURLから自動で書誌情報 (メタデータ) を取得しますが, 全ての情報が正確に入るわけではありません. 基本的には DOI という論文ごとのユニークな識別子が発見できた場合, CrossRef などのデータベースから情報を取得しています. しかし, これでも間違いがあったり, DOIがない資料があったりするため, メタデータは必ず確認して修正する必要があります.

3. メタデータを確認・修正する

ドラッグ & ドロップで入れた “Beauty and Labor Market” は, タイトルと著者名は正しく入っていますが, その他の情報が空欄になっています. 書誌情報のところを見ると “Zotero” となっているので, これはZoteroがDOIなどの情報を自動で取得できなかったことを示しています.

上の例は, CrossRefから取得したデータでも間違いがあったケースです. 著者名に “University of Maryland, USA” という著者の所属する機関名が入ってしまっています. ここでは, RISファイルによる修正方法と, Zotero上で直接修正する方法の両方を紹介します.

RISファイルとは, 文献情報を管理するためのファイル形式の一つです. 多くの出版社やデータベースが, 文献情報をRIS形式でエクスポートする機能を提供しています. 本来は

  1. RISファイルをダウンロード
  2. Zoteroにインポート

という手順で書誌情報を取り込むのですが, Zoteroのブラウザ拡張では, RISのダウンロードの際に自動でZoteroにインポートする機能もあります.

Zoteroの画面上で直接書誌情報を修正することもできます. しかし, 手入力はミスが起こりやすいので, 可能な限り出版社やデータベースから正しい書誌情報を取得し, 最終手段として手入力で修正するのが望ましいです.

4. references.bib にエクスポートする

Better BibTeXは, Zoteroの拡張機能で, BiBTeX形式でのエクスポートを強化するものです. これを入れると, ZoteroのコレクションをBiBTeXファイルにエクスポートする際に, ファイルを自動で更新するなどの便利な機能が使えるようになります. インストールは, GitHubのリリースページからダウンロードした .xpi ファイルを, Zoteroの「ツール」→「プラグイン」→「Install Plugin from File」からインストールするだけです.

Better BibTeXを入れると, Zoteroの文献ごとに “citekey” という識別子が自動で割り当てられます. これが, Quartoの [@...] で引用するときのキーになります. 個人的には, auth.lower + year 形式 (例: knuth1984) が分かりやすいと思いますが, 好みに合わせて変更することもできます.

Better BibTeXが設定されていると, 自動的にcitekeyが生成されるようになりますが, 既に文献を入れてしまった後にBetter BibTeXを入れた場合は, Zoteroの「ツール」→「Better BibTeX」→「Regenerate BibTeX keys」で既存の文献にもcitekeyを割り当てることができます.

コレクション名を右クリックすることで, そのコレクションに入っている文献をBiBTeX形式でエクスポートできます. 出力形式は “Better BibTeX” を選び, ファイル名は references.bib として, Quartoプロジェクトのルートディレクトリに保存してください. この時, 「Keep updated」をチェックしておくと, Zoteroのコレクションに文献を追加・削除したときに references.bib が自動で更新されるようになります.

2.4 Quartoによる引用

引用スタイルの指定

---
title: レポートタイトル
bibliography: references.bib
bibliographystyle: chicago-author-date
---

QuartoのYAMLヘッダで bibliography にBibTeXファイルのパスを指定し, bibliographystyle で引用スタイルを指定します. これで, Quartoの [@...] 形式で文中引用ができるようになります. その他のスタイルもCSLファイルという形式で指定できますが, 詳細はQuartoのドキュメント を参照してください.

文中引用

@key または [@key] の形で引用します.

2.5 演習

Tip演習: Quartoによる引用
  1. 適当な場所に演習用のフォルダを作ってください (例: 02-exercise).
  2. 02-exercise.qmd をダウンロードして, そのフォルダに入れてください.
  3. 02-exercise.qmd を開いて, 中に書かれている指示に従ってレポートを作成してください.

  1. Knuth, Donald E. 1984. “Literate Programming.” Comput. J. (USA) 27 (2): 97–111. https://doi.org/10.1093/comjnl/27.2.97.↩︎